BGMから見るYohji Yamamoto POUR HOMME Spring-Summer 2023 Collectionの悪い男とラウールくん
Yohji Yamamoto POUR HOMME Spring-Summer 2023 Collectionは、素晴らしい舞台芸術だった。
私はファッションにはとても疎く、知識もセンスも何もないのだけれど、BGMとモデルたち、そしてそのウォーキング(というかパフォーマンス)の掛け算が凄まじい効果を発揮していることはわかった。
というか、ファッションに疎いからこそ、ファッションショーとは服を見せるためのものであるとしか思っていなかったからこそ、衝撃を受けた。
あのショーはただ服をお披露目する場ではなく、服によってそれを着ている人を際立たせてパフォーマンスを成立させる舞台芸術だったから。
しかし考えてみれば、服というのは本来そういうもの(服が主役ではなく着ている人が主役)なので、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
私がこのショーを見たのはラウールくんが出ているからなので、こんな芸術があることを知る機会を与えてくれたラウールくんにとても感謝しています。
そのラウールくんが今回のショー出演後に出したコメントで、山本耀司氏の著書を読んだこと、その中で「女性に不条理なルールを決めた男が全員敵になった」という内容に共感したこと、それをテーマに“悪い男”を表現したことを話していた。
私はこのコメントを先に読んでからショーを見たのだけれど、BGMと、それにのせて歩くモデルが体現する“悪い男”の徹底っぷりに感動すら覚えた。
特にBGM選曲が、もう本当に徹底して“悪い男”なのだ。
あんな“悪い男”やこんな“悪い男”を、音楽で徹底的に演出していた。
最初と最後に流れたインスト曲は残念ながらわからないのだが、2曲目から順にどういう曲なのかに着目して、それに合わせて出てきたモデルたちとそのパフォーマンスを見ていきたい。
(※モデルたちと言いつつ、ラウールくんと俳優さんたちにしか言及していません。本職のモデルさんたちは名前がわからないし、やはり俳優さんたちの演技がわかりやすかったので……モデルさんたちごめんなさい)
1曲目 不明 0:00~ マフィアの幹部
何の曲なのかはまったくわからない(誰かわかる方がいらっしゃったら教えてください)のだけれど、いかにも悪そうな感じ。ザ・悪い男。
その中を黒を纏ったモデルたちが歩き、肩をぶつけ合いながらすれ違う。
そしてその曲のラスト(2:23)、白髪短髪の精悍な伊藤英明がそれはもうガラの悪さ全開のふてぶてしさ全開で登場(私はイケオジが大好きです)。
途中で誰かを見つけて歩み寄り、何かを問うように見つめるパフォーマンスも含め、それジャケットの内側に物騒なもの持ってますよね?というような、これからバイオレンスな映画が始まりそうな感じ。
というわけで、ここでの“悪い男”は、マフィアの幹部。
2曲目 Trouble(エルヴィス・プレスリーのカバー) 3:25~ 不良
この曲は、俺は悪いんだぜ、不良なんだぜってひたすら歌ってる曲。
ガチで「俺に近寄るとケガするぜ」って言っちゃってるやつ。
4:33で白スーツでキメた要潤が登場(好き)。
さらに続けざまに、要潤とはまた少し違う白スーツでキメた大沢たかおが登場(私はイケオジが大好きです)。
さらにさらにそこからモデル一人はさんでキャスケット似合いすぎの加藤雅也が登場(私はイケオジが以下略)。
この三人は、客席に目もくれない。
ランウェイ正面のカメラにくれる目線は超カッコイイけど、ちょっと気取ってる、伊達男っぽい感じ。
というわけで、ここでの“悪い男”は、不良。それも不良がカッコイイと思って不良やってる不良。
3曲目 なんでこうなんだろう(山本耀司) 6:38~ 社会不適合者のダメ男
この曲は、自分がダメダメな男だということを歌った曲。
自分で自分のコントロールができない、自堕落で、ヘタレで、気難しくて、面倒くさい、そういうダメ男だということを寂し気に、でも淡々と。
その、まさに「少し難しい人間なので」というところ、7:33でラウールくんが登場。
服はつぎはぎっぽい感じで、うらぶれたというか落ちぶれたというか、語弊を恐れずに言うとみすぼらしい様子というか。
そんな服を着たラウールくんは、ランウェイと言われて想像する颯爽とした歩き方とは真逆の、「そろそろ」とか、いっそ「とぼとぼ」と表現したいような、静かでゆっくりした歩き方をしている。
あの良すぎる顔とスタイルをもってしてなお、ものすごく曲に忠実なダメ男感、寂寥感がちゃんと出ている。
その後、モデル一人はさんで竜星涼が登場するが、彼はどちらかというと1曲目の伊藤英明に近いような、ちょっと刺々しい、睨むような感じを出している。
続けて出てきた城田優は、帽子も相まってスナフキンっぽい感じ。
三者三様の表現だけれど、どれも社会からはみ出している感じがあったと思う。
というわけで、ここでの“悪い男”は、社会不適合者のダメ男。
4曲目 貴方解剖純愛歌~死ね~(あいみょんカバー) 10:06~ 浮気男
超怖いんですよこの歌。
浮気男に対して、「貴方を解剖してパーツごとに私のものにして浮気とか絶対できないようにしてやろうか私のこと好きじゃないのマジ許さないわ死ねよ」って可愛く歌うんですよ。
10:33で「え!?これヨウジヤマモト!?」と言いたくなるようなド派手なスーツに身を包んだ遠藤憲一が登場(私はイケオジが好きすぎます)。
俺かっこいいけどなんか文句あるかよって感じで、爆モテなクズ男の風情たっぷりに歩ききる。
この曲の間はずっと(最初のエンケンさんほどでないにしても)派手めな服が続くので、そういうコンセプトなんだろうなと思う。
13:19で登場した伊藤英明は、最初の曲での威圧感とは打って変わって、ロングシャツ?ジャケット?の裾を翻してみたり、正面のカメラ前で目を伏せてみたりと、もててもてて困っちゃう罪な男を演じている様子。
というわけで、ここでの“悪い男”は、モテモテ浮気男。
5曲目 Danny Boy(曲:アイルランド民謡、詞:後世創作) 14:03~ 勝手な男
私が今回のショーで一番衝撃を受けたのはこの曲。
これは「愛するあなた、あなたは行ってしまうけど、私はずっと待ってるわ、だから戻ってきてね、私は死んでもあなたを待ってるわ、愛してるわ」という感じの歌。
実は、戦争に出征していく恋人や家族を見送る歌。
14:19に城田優がちょっとダラダラした感じの、本意ではないような歩き方で登場。
途中で立ち止まって誰かを見つめ頷くような様子を入れつつ歩き、決意を秘めたような眼差しで正面カメラを射抜く。
歌に忠実に、愛する人を残していくことにやるせない思いを抱えつつ、愛する人を守るために戦争に赴く男を表現していると思った(さすがミュージカル俳優)。
だが、これのどこが “悪い男”なのだろう?
その答えは、ラウールくんのコメントにある。
山本耀司氏の著書にあったという、「女性に不条理なルールを決めた男が全員敵になった」という内容。
そこで私は思った。
「戦争に行く男をおとなしく見送って、無事を祈ってひたすら故郷で待っている、その男が帰ってくるまで、変わらずその男を愛して待っている、死んでも帰りを待っている一途で貞淑な女」が美しいと決めたのは誰?
使命感に溢れた強い男は、裏を返せば独善的で勝手な男なのではないか。
……これに気づいた時、私はものすごい衝撃を受けた。
15:27に登場したラウールくんは、なんというか、ものすごく存在感のある幽鬼、という感じ。
さっきの城田優がこれから出征する男なら、ラウールくんは戦地から帰還した男。
服は濁ったような色が使われていたし、メイクも薄汚れた感じが出ていたと思う。
体を揺らさず静かに、でもしっかり足を踏みしめて歩き、「あなたが帰って来た時に私が死んでいたら……」と歌われている部分で、あのパフォーマンスをする。
そして彼が客席を見つめている間の歌詞は、「私が死んでいたらそれでもいいから、私が眠っている場所を見つけて」。
そこからまた少し歩いて、正面のカメラを見つめてから、何かをこらえるような、憤るような、諦めるような、なんともやるせない表情で目をそらして踵を返す。
その瞬間の歌詞は「私にさよならを言って」。
……おわかりいただけただろうか。
これはもう、振付でしょう。
完璧だ。
さすがミリオンアーティストとでも言えばいいのか?
なんなんだこの天才的な演出は?
この後、ダニーボーイが終わるまでに竜星涼さんも加藤雅也さんも登場するのだけど、申し訳ないけど割愛させてください。
このラウールくんはあまりにも完璧だった。
彼が完璧にパフォーマンスしたダニーボーイの“悪い男”は、女に一方的に役割を押し付ける、勝手な男。
6曲目 Are you lonesome tonight?(エルヴィス・プレスリーのカバー) 17:45~ 未練がましい男
この曲は、別れた恋人に「今夜は一人?俺に会いたくない?別れて後悔してない?」という類のことを延々語りかける歌。
さらには「俺を愛してるって言ったのは嘘だったんだよね、でも俺はそれでもよかったんだよ」とか。
男目線からすると冷たい女・ひどい女に惚れちゃってまだ引きずってる感じだろうけど、女からすると「いやあんたがそういう感じでうざいから別れたんだよキモっ」と言われても仕方ないウジウジ男だ(エルヴィスファンの皆さんごめんなさい)。
まぁとにかく、フラれ男の未練たらたらソングなわけで、俳優陣は傷心っぷりを表現している。
18:53に登場した要潤は、途中で客席を静かに眺めるけれど、眺めているだけというか、外界をシャットアウトしている感じがする。
続いて登場した大沢たかおは、ちょっと強がっているような歩き方。
誰か(恋人)を探すようなそぶりも見せる。
さらに続けて出てきた遠藤憲一も、落ちぶれたというか憔悴したというかやさぐれたというか、何で俺こんなとこで一人なんだろうなぁというか、かっこいいのにイケイケ感は一切ない。
背中の「心しずかに…」が実に納得。
というわけで、ここでの“悪い男”は、未練がましいウザ男。
ここで冒頭のインスト曲に戻って、山本耀司氏が登場し、ショーが終わる。
観客は多種多様な“悪い男”を見せられて、それを彩る服たちを強烈に印象付けられた。
それはもちろん服と、それを着ていた人たちの力だけれど、私は音楽がものすごく重要なファクターだと感じた。
Yohji Yamamoto POUR HOMMEの他のショー動画も見てみたのだが、今回ほど徹底してわかりやすく“悪い男”を演出したBGM選曲はなかったように思う。
このショーで、ラウールくんのパフォーマンスは特に際立っていた。
私はSnow Manのファンだからそう思うのだと言ってしまえばそれまでだろうけど、ファンの贔屓目を抜きにしても、彼のパフォーマンスは素晴らしかったと断言できるはずだ。
それは、彼の容姿だったり、デザイナーの要求を正しく理解する賢さだったり、ウォーキングの技術だったり、そういうものからもきているだろうけれど、何よりも、彼がダンスを踊る人で、音楽にのって表現するということに長けているからではないかと思う。
あのショーは、ラウールくんにとって最高に相性が良い舞台だった。
あの容姿と才能があって、さらに頭が良くて努力もする人だから、今回でなくても、いつかはコレクションデビューしていただろうけれど、今回は最高の形でのデビューになったのではないだろうか。
ラウールくんのパリコレデビューがYohji Yamamoto POUR HOMMEであったことは、素晴らしい幸運であり必然だったと思う。
心からの感謝と敬意を表したい。
ラウールくん、素晴らしいものを見せてくれてありがとう。
これからのスーパーモデルとしてのキャリアにとても期待しています。
お誕生日おめでとう!